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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)863号 判決 1964年4月30日

控訴人 松本儀一

被控訴人 高桑宗間 外三九名

補助参加人 国

代理人 水野祐一 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実(略)

理由

当裁判所は、訴外土方俊三が昭和二二年八月七日現在において訴外長沢明に対して有した金一五万円の貸金債権に付その弁済期を同年一一月六日とし、この債務のため同債務者所有の原判決添付目録(一)記載の不動産の抵当権設定契約及び代物弁済予約を結び、以上の約定に付同年八月七日附公正証書(甲第一号証)作成の手続をなすと共に、同月九日附で同不動産に付所有権移転請求権保全の仮登記をした事実、その後訴外松本長助が訴外松野竹司の仲介の下に右土方の有する貸金債権及び抵当権を譲受け、次で同年一一月四日頃松本長助がその子である控訴人代理人として長沢明から右不動産全部を代金一九万円で買受け、代金の内金一五万円は松本長助の譲受けた前記債権と差引決済の合意をなし、残金四万円は現金で支払つた上、同日土方の前記仮登記の抹消手続をすると共に、控訴人のため売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記をした事実を夫々認定するのであつて、その詳細と認定の理由は次の(1)乃至(3)の判断を附加するほか、原判決理由冒頭より同五枚目表三行目迄(但し同四枚目表四行目よりその裏五行目の「また」とある迄の部分を除く)と同一であるから、之を引用する。

(1)  成立に争の無い乙第八、九号証同第一〇号証の一、二に原審及び当審証人石田恒次の各証言を総合考察すると、控訴人のために前記仮登記手続の為された日の後なる昭和二二年一二月二二日附で、石田恒次を債権者、長沢明を債務者とし、且つ土方俊三を右長沢の代理人として金四六万円の貸金債権に付公正証書(乙第一〇号証の一)が作成されたこと、及びその後右石田と長沢明及びその子一夫との間に訴訟及び和解の行われたことは認められるが、この事実に、土方俊三と長沢明との間に作成された債権譲渡証書(甲第二号証)の日附が昭和二二年八月八日であることを考えあわせても、いまだこの両名間の前記公正証書(甲第一号証)記載の債権が存在し、且つそれが松本長助に譲渡されたとの認定を覆えすには到底足りない。

(2)  原審及び当審証人西尾久次、当審証人長沢明の各証言を総合すると、右西尾久次に対する告発事件の経過及び同事件における検察官の取調に対し長沢明が右西尾のため有利の陳述をしたことに関する当審における控訴人主張事実を認定するに十分であり、このことも当裁判所の前示事実認定の一つの根拠と見ることができる。

(3)  当審におけるすべての証拠調を精査し、且つ事実関係に付ての当審における被控訴人の主張と対比考察するも、いまだ上記の各認定を左右するに足りない。

次に右(一)の不動産に付ては控訴人の右仮登記に先立つて、訴外株式会社日本勧業銀行及び笹山昭美株式会社のため、被控訴人主張の(イ)(ロ)の各抵当権設定登記がなされていた事実及び右不動産に対し長沢明に対する滞納税金徴収のため昭和二二年一二月一日差押登記がなされ、昭和二四年三月二五日公売が行われ、控訴人主張の二七名が共同して買受け昭和二五年四月二一日同人等のため所有権移転登記手続が行われた事実、同不動産に付控訴人のために為された前記昭和二二年一一月四日附仮登記に基いて、昭和三〇年一〇月三一日附所有権移転登記の行われた事実、及び森義次、渡辺弥一、藤野良三、渡辺浅吉の各死亡により夫々相続が行われたことに関する、原判決記載の控訴人の請求原因二、三、五、の各事実と、同じく被控訴人等の答弁一、の事実はいづれも当事者間に争が無いから、以下控訴人のなした仮登記に基く本登記の効力に付て考察する。

先づ控訴人は公売処分の完結後においても、前記のとおり控訴人のため仮登記に基く本登記手続が行われた以上、仮登記以後の中間処分が失効する結果として、公売処分は滞納者長沢明以外の者の所有物件に対して行われたことに帰着して無効と見るべきであり、この点においては公売処分中に右本登記の行われた場合と何等の相違は無いと主張する。

しかしながら、一般に仮登記に基く本登記のなされた場合においても、その対抗力は本登記の時に始めて生ずるのであつて、仮登記の時迄遡るものではなく、単に仮登記の順位保存の効力によつて仮登記以後になされた中間処分が本登記と牴触する限度において失効するにすぎないと解すべきである。而して本件において公売処分の進行中は、控訴人のためには終始仮登記のみがなされていたに過ぎないのであるから、この期間中においては右のごとき順位保存の効力も無く、従つて控訴人の所有権は対抗力が無いままに公売処分は完結に至つたのであり、一方右滞納処分に際しては、控訴人の仮登記に先立つ前記各抵当権者に対し夫々被控訴人主張の配当の行われた事実は当事者間に争の無いところである。又一般に国税滞納処分の完結した場合には、その差押以前に設定された質権抵当権も、その債権全額の満足を受けたと否とに拘らず、一切消滅するものと解すべきことは疑問の余地が無い。ところが本件において、若し公売処分の完結後に、控訴人のための仮登記に基く本登記が行われた結果として右公売処分そのものが無効となるとの控訴人の解釈を容れた場合は、之に伴つて先順位の右抵当権も勿論消滅しなかつたこととなる半面、各抵当権者はすでに受領した配当金を返還しなければならない結果を生じ、元来右抵当権者に対抗できぬ筈の控訴人の仮登記に基く本登記の行われたことが右先順位抵当権に対しても影響を及ぼすことになるのであるから、かかる解釈は到底許されないところである。してみると、先順位抵当権がこのようにして消滅する以上、之に対抗できない控訴人の仮登記上の権利も之に伴つて必然的に消滅するものと解しなければならないのであつて、かく解しなければ、正に被控訴人の言うとおり仮登記上の権利者は自ら何等の出捐もせずして先順位抵当権の負担を免れるとの不公平な結果を生ずるわけである。

尤も競売法による競売はいわゆる物的責任の強制実現を目的とするに反し、一般の強制競売と国税滞納処分とは人的責任の強制実現をはかる関係からいわゆる余剰主義を採用しているので、この二つの処分と競売法による競売とを比較すると性質上の差異があること、並に、この三種の処分を通じてその差押に先立つ抵当権は特別の例外の場合以外には消滅すべきものであるが、その消滅の理由に至つては一般の強制執行の場合は優先弁済に基くに反し、滞納処分の場合には全額の弁済なくとも、法律政策的見地の下に先順位抵当権が消滅すると解すべきことはいずれも控訴人の主張するとおりであるから、原判決の説くように、本件の公売処分も亦、競売法による競売の場合と同様に先順位抵当権設定当時の態様において行われたものと見ることには疑問の余地がある。しかしそれは別問題として当裁判所は仮登記に基く本登記の行われた場合の法律的効果を対抗力そのものの遡及は生じないとの範囲内に限定する必要のあることから考えて、本件のように仮登記上の権利に先立つ抵当権が存在し、而も公売処分の完結までには仮登記に基く本登記は行われなかつたとの事案に関する限りは、公売処分が完結すると共に先順位抵当権は消滅し、之に伴つてこの抵当権に対抗できない控訴人の仮登記上の権利も亦消滅したものであり、従つて右完結後も登記簿上形式的には控訴人の仮登記は残存していたけれども、之に基く本登記をなすことは許されず、たとえ誤つて本登記手続がなされても、右公売処分の効力を覆えすことはできないと解するのである。

以上の次第であるから右公売処分の無効であることを前提として原判決添付目録(一)の土地建物に付昭和二五年四月二一日附で被控訴人等のためになされた前示所有権取得登記の抹消登記手続を求める控訴人の本訴請求は失当であり、一方控訴人に対し右各不動産に付為された昭和二二年一一月四日附所有権移転請求権保全仮登記及び之に基く昭和三〇年一〇月三一日附所有権移転登記の各抹消登記手続を求める被控訴人等の反訴請求は正当であることは、いずれもその余の争点に付考察するまでもなく明らかであつて、之と同趣旨の原判決は結局相当である。仍て本件控訴を棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八四条第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 加納実 沢井種雄 加藤孝之)

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